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「働けるのに、働きたくないから、働かない」生活保護当事者って?」
に書いたとおり、生活保護当事者の多くは「働きたくないので、働かない」という方ではありません。
そういう方も少数ながらいますけれども、むしろ探すのに苦労する、「珍しい」といってよいほどの存在です。
今、働いていない生活保護当事者で「働きたくない」という言葉を口にする方々でも、丁寧に話を聞いてみると
「働きたいけれども、自分に出来そうで続けられそうな仕事がない」
というような言葉を口にされることが多いのです。
就労のネックになっているのは、

・生活保護を利用して病気の治療を行ってきており、現在、病気は軽快しつつあるのだけれども、直前5年間に就労実績が(短時間のバイトといえども)全くない
・単発の2~3時間程度のバイトでいいから仕事を始めてみたいのだけど、応募してみても落とされるばかり
・心身の状況が不安定。調子のよい日なら1日10時間くらい働けるかもしれないが、調子の悪い日なら出勤(自宅での仕事の場合、仕事への着手)も無理
・最終学歴が中卒または高校中退、なおかつ年齢が40代以上

といったことです。

拙著ですみません。生活保護当事者と置かれている状況のアウトラインを理解するために、ぜひご一読を。

Kindle版もあります。


本人たちの人間関係に一定の豊かさや厚みがあれば、周辺の理解者を通じて、仕事はそれでもポツポツとは回ってきます。そこに落とし穴があるんです。
「福祉事務所にバレないように、こっそり働いて、こっそりお金使えばいいじゃない」
といったアドバイスをしたり、実際に仕事を回して報酬を支払ったりしてしまう人が、結構いるのです。
私はそういう話を、7人程度から聞いています。アドバイスの主は、かかりつけの医師であったり、生活保護制度についてよく知らない公務員であったりする場合もあります。その人たちが何を言ったのかを少し詳しく聞くと、背景には、
「生活保護当事者は支給される生活保護費の範囲で生活しなくてはならないので、 就労収入を得たら福祉事務所に全部持ってかれる。働いたら損する制度」
という誤解があるようです。 
「支給される生活保護費の範囲で生活しなくてはならない」
は、一応はその通りです。 しかし、
「就労収入は福祉事務所に全部持ってかれる」
はウソです。働いて得た収入の全部を自分で使えるわけではなく、所得税と同様、稼げば稼ぐほど多く「持ってかれる」のではありますが、働けば、可処分所得は若干は増えます。
現在、一ヶ月あたり15000円までの就労収入は、まるまる可処分所得の増加になります。 
2013年8月1日、生活保護基準の見直し(ほぼ引き下げ)が行われたのですが、その時、若干は「働いたらトク」となる見直しも行われました。それが、この「一ヶ月あたり15000円」です。それまでは8000円でした。

しかしながら、この「15000円の可処分所得増加」は、福祉事務所に収入申告を行った場合の話です。
もし、収入申告を行わず、
「12000円だから、いいよね」
と使ってしまうと、「就労収入の申告漏れ」ということで、ヘタすると不正受給扱いとなります。
さらに運が悪いと、いきなり起訴されて「前科一犯」にされてしまうかもしれません。

困ったことに、生活保護当事者に対して、就労申告に関する説明は充分になされていないようです。
「昨年8月から、15000円までは働いて可処分所得を増やせるようになった」 
ということを、私に聞いて初めて知った生活保護当事者が何人もいました。
ちゃんと説明しないでおいて、改正生活保護法で「不正受給の罰則を強化」だなんて。
もしかすると、不正受給の摘発「効率」を高くするために、わざと、不正受給にならないために必要な手続きを教えないのかも。そういう勘ぐりもしたくなります。 
役所が(全部ではありませんが)こうなんですから、善意の第三者は役所以上に、自分の善意が相手を陥れる結果にならないかどうか注意していただきたい。
切に、そう願います。 

ちなみに私は、生活保護当事者に仕事を依頼する場合、
「収入申告~!! 福祉事務所に行く元気もないなら担当ケースワーカーさんに電話の一本を~!!!」
と、だいたい3回くらいはメールで繰り返しています。 
もちろん、本人に注意を喚起するためです。
そして、もし本人が何らかの事情で(たとえば調子が悪くて福祉事務所に2ヶ月行けなかったとか)「収入申告漏れ」 ということになってしまったときに、私が「生活保護費不正受給の片棒をかついだ」ということにされないため、です。
生活保護当事者に対する支援を長く細く続けるためには、支援者が「共犯」にされないように神経を尖らせなくてはなりません。
そんな恐ろしい時代になってきましたからね。
ナチス・ドイツでユダヤ人を支援した市民たちが、何にどれだけ注意していたかに学ぶ必要があるほどかもしれません。