私もそんなに詳しいわけではないんですが、「アメリカでは」と日本で喧伝されているもろもろは、必ずしも米国の実態を正確に伝えていません。何点かをここに記しておきます。

・「フードスタンプ(SNAP)は食料品にしか使用できず換金できないんだって?」

日本でもフードスタンプを導入すれば「生活保護費でパチンコ」はなくなる、という主張が多いんですけど、結構弾力的な運用がなされています。
自動車を利用している困窮者が食料品店でフードスタンプを利用して買い物をしたとき、いくらかお店で現金化して、パーキング・メーターで駐車代を支払うことが可能である、など(「困窮者、自動車を手放すべし」的なルールはありません)。
もちろん悪用する人はいるんでしょうけど、「だからフードスタンプは厳格に現金化できないように!」という議論には、米国ではなかなか発展しないようです。

・ 「米国の貧困層は日本の貧困層よりも惨めなんでしょ?」

「だから日本の生活保護当事者をもっと困らせろ」という主張につながることが多いのですけれども、どうなんでしょうか? 
確かに米国には、ニューヨーク市だけで5万人とも7万人とも伝えられる多数のホームレスの問題に代表される貧困問題があります。
しかし総合的に見て、公的貧困対策は日本よりもずっと充実しています。
情報を得て、支援につながることのできた人に対しては、日本の生活保護と同等かそれ以上の手厚い支援が用意されています。「支援につなぐ」も自治体がNPOに委託するなどしています。「支援につながず追っ払うためにNPOに委託」というのではなく。
ただ、それらの支援が、格差の拡大、貧困の拡大に追いついていないのは事実です。 目の前の問題にすぐ対処できるだけの予算執行がいつも可能とは限らないので、支援につながれない多数の方々が結果として取り残されてしまうという問題はあります。

・「米国の生活保護費は低く、受給者は就労を求められ、そうしないとその低い保護費ももらえないんでしょ?」
 
これはTANFを指しているものかと思われますが、そもそも日本の「生活保護」 そのものに該当する制度が米国にはありません。TANFの金額そのものは生存にも足りないのではないかと懸念されるようなものですが(しかも今後削減される見通し)、他に住の支援があったり、子どもへの教育支援があったりします。それらを総合すると、日本ほどひどくはないのでは、という感じです。ただ、支援が数の面で追いついていないという現状はあります。

・「米国は自己責任の国だから弱者に手を差し伸べないんでしょ? 日本でもそのグローバル・スタンダードに従わなければ」 

自己責任を重視はしますけれども、そうする以上、自己責任を果たす前提条件であるフェアスタートを重視するのが米国です。たとえば、低所得層・マイノリティの子どもたち向けの無料の教育支援が、あちこちで提供されています。教育を行わなければ、貧困が連鎖するだけですから。その内容も、「高校にも行けなさそうな子どもを高校に進学させて卒業させ、手に職をつけさせて介護業界にでも」というようなものではありません。「そういう子どもたちだからこそ、よりよい将来を」とハイレベルの進学を目指させるプログラムもいくつかあります。
それに、米国では食料品の消費税率は、他の商品より低く抑えられています。無税のことも。「食」という生存の基本で、低所得層が不利にならないようにということです。
米国には、フェアネスが重視される風土があると思いますよ。少なくとも日本よりは。

・「ではなんで、米国にはあんなにホームレスがいるの?」

私には分かりません。といいますか、一言で言えるような問題でもないかと。
ただ、米国を実際にドライブしているといえる層(政府ではなく)、政府、自治体、市民社会、個人、それぞれのレイヤーに異なる考え方があること、各レイヤー間の力関係に状況が依存しうることは、理解しておく必要があるかと思います。