昨日今日と、私の生業や生活について「いいわねえ」という羨望をぶつけられて大変不愉快な思いをしたので、自分の生業について書いてみることにしました。
本エントリを読んでなおかつ「いいわねえ」と言えるなら、どうぞ! という気持ちです。
  • フリーライターの報酬は、時間に応じて支払われるわけではない
自営・自由業はそんなものなのですが、意外に実感としてはご存じない方が多いです。結構な時間を労働しているわけですが、時間に応じて報酬を支払われるわけではないんです。
  • フリーライターの報酬相場・報酬の決まり方には、さまざまなバリエーションがある
記事の場合は、紙媒体でもWeb媒体でも「一本あたり◯円」「文字数◯文字あたり◯円」という形で決まることが多いです。相場はまちまちですが、私は「1500文字(A4版の雑誌1ページの文字数に相当)で1万円」を一応の目安として「基本的に、これ以下の仕事は受けない」ということにしています。経験上、これ以下の報酬で仕事を受けると、「かける時間を減らす」「仕込みを必要最低限にする」といった形でアウトプットに皺寄せせざるを得なくなります。「その媒体に掲載すること自体に大きな意味がある」「その媒体に掲載すると、ふだんの仕事でアクセス出来ない読者さんに届く」「連載で、しかも単行本化が予定されている」などいくつかの条件下では、1500文字1万円以下でもお引き受けすることがありますけれども、こちらの体力・気力・時間などの資源が有限である以上、限度を超えた「安売り」を続けることはできません。
無料での記事依頼? もっと余裕があって稼げているライターさんに頼んでください。こちらは車椅子利用なので、移動に健常者のライターさん以上の時間がかかります。ヘルパー派遣を受ける都合上、使える時間は健常者のライターさんより少ないのです。
  • フリーライターの労働時間は結構長い
 私の場合、起きている時間が概ね一日あたり16時間程度、そこから家事・ヘルパー派遣を受ける・生活・通院など欠くべからざる時間を合計したら4時間程度でしょうか。一日12時間は働いていることになります。あ、念のため。この他に家事労働が存在するわけです。
ついでにいうと休日らしい休日が存在するわけでもありません。私の場合、完全なオフといえる日は、月に2日程度しか存在しないと思います。稼働率50%程度の日が月に4日程度あるとして(そんなものだと思う)、休日は一ヶ月あたり4日。一ヶ月あたり少なくとも25日くらいは働いているということになります。
年間労働時間は 12 × 25 × 12 = 3600 時間。もし「職場環境が悪い」「上司がクラッシャー」など仕事そのもの以外のストレスが多い状況なら、過労死してもおかしくないでしょう。
  • 時給計算したら最低賃金レベルにも達しない?
東京都の最低賃金より少しはマシな時給1000円を確保するために、どれだけ収入を得ればよいでしょうか? 年間3600時間なんですから、利益が(売上ではなく)400万円は必要ということになります。売上で600万円くらいでしょうか。1ページ1万円で雑誌の仕事を受けた場合には600ページ。よほど売れている人でない限りは、そんな荒稼ぎは無理です。
  • フリーライターに固定給はない
「売れた著書が多数あって絶版になっておらず、印税収入が入り続けている」
という状況であれば話は別ですが、いまどき、著書10冊程度ではそういう状況にはなりません。大半の書籍は3年も経たずに絶版になりますからね。
  • フリーライターの収入は不安定
人にもよりますし、その人の抱えた事情にもよりますが、フリーライターの収入は極めて不安定なものです。私自身、過去10年間での売上(利益にあらず)は20万円~400万円と大きな幅があります。生活保護基準以下の生活をした経験は、何回もあります。
  • フリーライターの仕事のうちアウトプットはごく一部
ノンフィクションの書き手が「取材を行って原稿を書く」は誰からも理解できることと思われますが、仕事は他にもたくさんあります。営業・人的ネットワークづくり・取材前に行う調査や資料読み・場合によっては音声起こし・さまざまな種類の連絡など。経理を外注していない場合には経理も含まれます。銀行などで頭を下げて資金繰りという場面もありえます。ちなみに私の場合は、大学院での研究は「仕込み」「将来への投資」の一部に位置づけています。
  • フリーライターの仕事はアウトプットだけではないが、評価はアウトプットで「のみ」行われる
「人間関係を良くする」「ネットワークを作る」などは必要ですし有効でもありますが、結局、アウトプットでだけ評価されるのがフリーライターという存在です。延々とオーディションや採用面接が続いているのも同然です。長期連載が何本かあっても同じこと。その回から読み始める読者さんもいるわけですから。
逆にいうと、アウトプットでだけ評価されるわけですから、持てる資源は可能な限り多くをアウトプットの向上に注ぎ込むのが有効な生存戦略ということになります。
  • フリーライターは経費は使えるけれども、なるべく使いたくない
自営の有利な点、特に著述業の有利な点の一つは、経費を使いやすいということです。アウトプットの品質・収益に大きく影響しうる部分では経費は使いたいけれども、影響しない経費は削りたい。すべての経営者がそう考えるでしょう。ライターの私が一人社長でもある我が事務所でも、事情は同じ。
パソコンは酷使してますが、ノートパソコン1台を3年くらい使ってます。3年でだいたいキーボードが摩耗するので、それを潮時として買い換えることにしています。
取材旅行のときの経費も、圧縮できるだけ圧縮しています。海外取材のときは、ドミトリーという選択肢があれば積極的に利用します。ホテル宿泊でも可能な限り自炊。調理器具も持っていきます。外食したら計画的に食べ残して持ち帰り、もう2食か3食分に(念のため。国際線に障害者割引はありません)。国内ではホテル一泊4000円、最大でも一泊5000円を目安にしています。私の宿泊以外に、猫にペットシッターさんの費用が必要ですから、自分の宿泊費用は抑えられるだけ抑えるわけです。
なお、机はないと困るので、カプセルホテルやスパは選択肢になりません。
  • 結論:相当のストレスがかかる仕事、ストレスをマネジメントすることも仕事のうち
フリーライターとして継続して活動している人間には、中小規模の企業経営者や大企業の中間管理職と同程度のストレスはかかっていると思うのですが、いかがでしょうか? 
「いや自分の方が苦労している」
と言いたい方には、ぜひ、その「苦労」が評価されない理由を考えてみていただきたいと思います。
専業フリーライター15年目の私は
「苦労は基本的には収益改善につながらないんだから、雇用者・経営者に評価されなくて当たり前」
だと思っています。 
私の記事を読む読者さんにとって、私の「苦労してる」「ストレス溜めてる」は何の意味もありません。読者さんにとって意味あるのは、ただ記事そのもののみです。だから、苦労したりストレス溜めたりしていられないのです。