アベノミクス下で、景気は上向いたと言われています。
一方で、格差は拡大したとも言われています。
私の身辺には、両方に関連するストーリーがあります。

電機業界の多重下請け構造の比較的末端近くで
自営業を営むY氏は、
安倍政権成立後、「動きが出始めた」と喜んでいました。
そして、数多くの新規案件を受注し、
今は「忙しい」と嬉しい悲鳴をあげています。
アベノミクス以前の数年間は動きが極めて鈍く、
Y氏は廃業も視野に入れざるを得ない状況にありました。 
(そして、生活保護削減に賛成するY氏と私は
 大変な喧嘩をし、絶交しました)


一方で、生活保護基準は引き下げられました。
私の数多くの友人・知人たちの生活が苦しくなりました。
その人々は、直接の生活保護当事者であったり、
いわゆる「ワーキングプア」であったりします。



本当に「景気の悪い」時期には、
年末年始やお盆といえども、都心の人影はそれほど減りません。
しかし、2014年の年明け前後、
少なくとも西荻窪駅周辺の人口は、
2013年の年明けに比べれば少なかったと感じられました。 

報道でも、この年末年始には約3000万人が旅行したと報じられています。「見通し」ですが。
JTBがこのほど発表した年末年始(2013年12月23日―14年1月3日)の旅行動向によると、国内旅行人数は前年同期比2・0%増の2983万1千人、海外旅行人数は同2・1%増の69万5千人とともに過去最高を記録した。11年ぶりに最大9連休となる日並びの良さと、冬の賞与増が旅行意欲を後押しする見通しだ。また、世界遺産登録された富士山周辺地域への来訪者の増加が見込まれる。同動向はJTBグループの販売状況、航空会社の予約状況、業界動向、1200人へのアンケート調査などから推計した。
 (旬刊旅行新聞 「国内、海外とも過去最高、(JTB年末年始旅行動向)」 による)

この年末年始には、主に
「賞与」と関係のある会社員とその家族が旅行したということなのでしょうか?
むむむむむ?



一方で、私の感覚は、それともまた異なる事実を拾い出します。
経済的に恵まれているとは言えないけれども、
必要であれば取材や調査などの旅行に行く人々が、
私の周辺には、自分自身を含めて数多く存在します。
その人々が異口同音に語るのは、
「安宿が取りづらくなった」
ということです。
日本国内では、朝食を含めて一泊5000円以下の安宿は、
1~2年前に比べると取りづらくなっている実感、
私にも確かにあります。
取材旅行ばかりで、むしろ休前日の宿泊がほとんどない私の場合、
「取れない」ということは少ないのですけれども。
もしかすると
「ちょっとだけ可処分所得が増えた」
という人たちの、安宿を利用しての旅行が増えているのかもしれません。



ここで、前掲記事をもう一度見なおしてみましょう。
費用に関しては、このような記述があります。
国内旅行の平均費用は同3・9%増の3万2千円を予想する。
ん? ずいぶん慎ましい感じが。
 海外旅行の平均費用は同4・8%増の21万7千円としている。

オフシーズンでも、
「ヨーロッパ往復+下の上~中の下程度のホテルに5泊」
といった旅行には、
通信費・食費などの雑費を含めれば、20万円程度の費用は必要でしょう。

年末年始の料金設定が通常期より高額となっていることを考えると、
これは「ケチケチ旅行」と言っても良さそうです。
安宿・LCC・割引料金などを駆使することが得意な旅行者だったら、
たとえば
「2泊3日の九州旅行(東京発)を3万円で」
「7泊8日のヨーロッパ旅行(成田発)を20万円で」
は、年末年始といえども不可能ではないでしょう。
「お金持ちじゃないけど、ちょっとだけ可処分所得が増えた」
という人たちの旅行が増えたのだという説には、
一通りの「もっともらしさ」はありそうです。
でも、平均値だけでは全体のトレンドは分かりません。

「年末年始の東京都区部の人影」 と
景気動向・格差化の状況を結びつけて考えるには、
さらに数多くのデータが必要です。
たとえば、約3000万人の旅行者たちは、一回の旅行に何人で何円使うのでしょうか? 
人数や費用の分布はどのようになっているのでしょうか? 
平均値ではなく最頻値はどうなのでしょうか?

とりあえず、報道されている少ないデータと
自分自身の感覚の違いに敏感になるだけで、
問題意識は、少しだけ研ぎ澄ませることができます。

最後に拙著のコマーシャルです。
大げさでなく、小学校算数が分かれば読めます。
きっと、こんなふうにデータから論理的に考えてみることのお役ににも立つと思います。