2013年夏、私はWFMH日本支部から助成金をいただき、ブエノスアイレスで開催されたWFMHの世界大会に参加してきました。
助成金の総額は、健常者なら問題なく利用できる安めの個人ツアーと同額でした。
当時の我が家は、キャンセルしたら全額が戻ってこないツアーは利用できない事情がありました。というわけで、フライトと宿泊は別途確保。
フライトは、私の知る限りは最も車椅子への対応が安心できるANAさん+提携航空会社 にお願いすることにしました。提携先のフライトでは、ANAさんから必要な対応を申し送っていただき、なんのトラブルもありませでした。
問題は宿泊でした。ブエノスアイレスのホテルやドミトリーのバリアフリー情報が、そもそも非常に少ないのです。
「バリアフリーです」と明記してある一部高級ホテルは存在するのですが、価格面で論外。
といって、「ごめんなさい、車椅子では無理です」と明記してあるホテルが存在するというわけでもありません。
困りました。 

  • 困ってしまってH.I.Sさんに相談、そして解決
とりあえず H.I.Sさんのサイトで、「写真に映っている範囲ではなんとかなりそう」と思ったホテルを予約し、備考欄に「車椅子利用です」と書いておいたところ、翌日、お電話があり、「このホテルは車椅子対応ではないということです」。入り口に4段ほどのステップがあるとのこと。そりゃ確かに無理です。
そのホテルはキャンセルしていただくしかなかったです。行っても泊まれないのでは、ね。
「何日かお時間いただきますが、現地スタッフに調べてもらうことはできます」
ということなので、当方の必要とする情報(バリアの内容と程度(たとえばステップが1段あるとして、高さは何cmなのか)とともに、お願いしました。「現地スタッフ」といっても常駐しているわけではなく、「アテンドを必要とする日本人が行く」などの必要に応じて契約する方のようでした。
数日後、ホテル情報を知らせる電話とともに、「電話で今予約を受け付けることもできますが、ネットで予約していただいたら、もっと安くできますよ」とのことでした。
私は、いただいた候補の中からホテルを選び、安全に快適に、充実したブエノスアイレス滞在を楽しみました。
H.I.S.さん、あのときは、どうも。今も感謝しています。
 

  • 自転車のタイヤ情報は得られず、代わりにお説教と中傷が
 
一方でこのとき、私はブエノスアイレスの自転車のタイヤに関する情報がわからず困っていました。自分の車椅子のチューブのバルブは米式です。ポンプは持ち歩いているものの、チューブの空気が抜けた時に自力で入れられない私にとっては大問題です。
現地ブエノスアイレスで使われているバルブの主流は何式なのでしょうか? 路面の状況はどうなのでしょうか? ノーパンクタイヤにしておく必要があるのでしょうか? まったく、情報が得られませんでした。
私が知りたかったのは、「ブエノスアイレスの街中の普通の自転車屋さんは、米式バルブに対応可能ですか?」だけです。ごくごく簡単な話です。
ツイッターで尋ねてみたところ、「車椅子なら、障害者を対象にしている旅行代理店にお金を払って依頼すべきだ」というお説教。「そこまでの経済力はない」と答えると、「なら行くな!」とのお返事。車椅子と言わず、自転車と言っておけばよかったのでしょうか? 「現地の障害者団体に問い合わせる」という知恵は、その時は沸きませんでした。
結局、自転車レースの熱烈なファンである友人の医師が「バルブのアダプタを持っていけばよいのでは?」とアドバイスしてくれました。
 
なお現地は、表通りといえども歩道はボコボコ、深さ数十センチメートルの陥没があちこちにあり、夜間に青少年が落書きをしたりガラス瓶を割ったりするものだから、ガラスの破片があちこちに。なにしろ若年失業率が20%超。そうもなりますわな。
滞在中は一度も、タイヤのトラブルはなかったのですが、NYCでフライトを乗り換えようとしたらガラスの破片が突き刺さっており、抜いたらしっかりパンク。まあNYCなら「セントラルパークの貸し自転車屋さんのあたりまで行けば、なんとかなる」です。幸い、それだけの時間はありました。
セントラルパーク近くの自転車屋さんに、車椅子用の特殊チューブはありませんでしたが(そりゃそうだ)、代用できるチューブの在庫はありました。かくして私は、JR西荻窪駅から住まいまでの行程を、パンクしてない車輪で安全に帰ってくることができました。でもこれ以後は、予備チューブを持ち歩くようにしています。


  • まだ障害者になっていない健常者の方へ

障害者が必要としているのは、「障害者だからといって特別扱い」であったり、あるいは「障害者に対する完全な対応」といったものではありません。
たとえば障害者が旅行したりお店などを利用するにあたって、「完全バリアフリー」を求めているとは限りません。「今どき、新規に建造される大規模建造物にわざわざバリアが」は大変困りますが、古い街や古い建物も数多くある日本で、物理的な「どこもかしこも完全バリアフリー」を実現するのは、少なくとも向こう数十年レベルでは非現実的すぎます。それを最もよく知っているのは、街や交通のバリアフリー化を求めてきた障害者運動家自身ではないかと思われます。
私自身についていえば、「完全バリアフリーではないようだけど、バリアの内容と程度は?」が事前に判明すれば、それで済む話であることが実に多いのです。

「障害者を排除したいわけではないけれど、何をどうすれば排除にならず、なおかつ自分が責任を問われたりしないのか?」
といったことで誠実に悩まれている方々は、ぜひ障害者本人に、
「どういう情報があれば、あなたが判断できるのですか?」
と聞いてみてください。  
「明確に」か「こっそりと」かは別として、障害者を差別して排除したい方には、私は「変わってほしい」「何かしてほしい」とは思いません。ただ、「あなたはまだ、障害者になっていないだけだ」とだけ申し上げておきます。