白血病との闘いを続けている京大大学院生・山口雄也さん(Twitter: @Yuya__Yamaguchi)のご著書、『「がんになって良かった」と言いたい』から基本は1節ずつ抜き書きして、自分のメモを記すシリーズの11回目です。
 私は Amazon Kindle 版を購入しましたが、紙の書籍もあります。





スターライト(2018. 4. 3)

 人間の精神における「正常」と「異常」、そして人間が必ず経験する喪失とその後に関する示唆に満ちた本節は、山口さんのがんがいったん寛解し、穏やかな生活が続いていたころに書かれました。

 人間の内部には、多かれ少なかれ空洞がある。(略)とにかくそれは、誰にも彼にも存在しているのだ、と。
 ところが空洞には、とりわけ頑丈な蓋が施されていて、僕たちはたいていそれを閉じたまま生きていくことができるようになっている。(略)
 しかしながらある種の人間の場合、その蓋は往々にして無意識のうちに開場され、あらゆるエネルギーがその空洞に落とし込まれるのだ。  

 空洞の中には、低次から高次までのありとあらゆる欲求が落とし込まれ、消えるかのように見えますが、実は消えておらず、姿を変えて自分のもとにやってきます。人間がそういうものである以上、誰にも起こりうることなのでしょう。

 その空洞を虚無と呼ぶ者もいるし、鬱と呼ぶ者もいる。

 記憶。自分を支えてきた過去。

 自分にとっての過去のほとんどは、輝きを放っていたはずだった。
 しかし、それがいつしか僕を苦しめるようになった。

 自分を形作ってきたものが、自分を苦しめるという感覚。こういったことから精神症状が発生する可能性(ホルモンバランスを含め、精神症状の多くは原因不明です)があるとすれば、誰もが一定条件下で精神症状を経験しうることになります。

 星々のような記憶が自分を苦しめる様子は、宇宙論の知見になぞらえて描かれます。

 エネルギーの源だったはずの記憶の塊が、星座が、ある出来事を境に爆発してエネルギーを奪うようになる。
 輝きを放っていたはずの過去は、天の川は、光さえ吸収するほど黒ずんでしまう。

 がんが発覚する前の自分、そして現在の自分を比べる山口さん。

 何もかもさめてしまったのだ、と思う。
 もう星を探してはいけないのだ、と。今現在の言動が、いつか未来の自分を攻撃してしまうのだ、と。

 似たような感情を経験したことがある、と思い当たる方は少なくないことでしょう。私自身はそうです。ただ、がんで余命を宣告されたことはありません。敢えて、「似ている部分もある」「部分的には共通点がなくはない」程度の共感にとどめておくべきだと思います。辛い時の安易な「わかる、わかる」ほど、辛さを大きくするものはありません。

 山口さんは、がん以前に思い描いたものではない現在を生きつつ、がんの前後で変わってしまった自分の過去を位置づけしなおす方向へと向います。ただし、焦らずに。

 「確かにさめてしまったが、全てがさめてしまったわけではないのだ」、そう思った。
 歪んでいたはずの過去は、まだ上手く解釈できないけれど、少しずつ元の形に戻ろうとしている。無理に言葉にする必要はない。目を閉じて待てばいい。

 そして、車を運転していた山口さんは、アクセルペダルを踏みます。車の運転をしたことがない私も「そういう感じなのだなあ」と共に爽快感を感じているような気持ちになります。


山口雄也さんを応援する方法の例

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  • 重い病気と闘病する人々やその家族の心境について、信頼おける書籍を読み、傷つけることなく支援する方法へと近づく



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 精神疾患を持つ当事者による書籍も紹介したいのですが、私の認識では決定版といえるものがありません。むしろ、健全なことでしょう。
 もっともっと当事者による発信が増えて、誰もが自分にフィットするコンテンツ群に接することができ、自分のために編集することが容易になればいいと思います。