白血病との闘いを続けている京大大学院生・山口雄也さん(Twitter: @Yuya__Yamaguchi)のご著書、『「がんになって良かった」と言いたい』から基本は1節ずつ抜き書きして、自分のメモを記すシリーズの10回目です。
 私は Amazon Kindle 版を購入しましたが、紙の書籍もあります。





報われない努力(2017. 11. 25)

 11月24日を、山口さんは「告知日」と命名しました。がんの告知を受けた日だったからです。
 それから1年と1日が経過した日、闘病生活を振り返ります。

激動の一年はこれほどまでに長かった。

 山口さんは、誕生日を第一の人生の始まり、告知日を第二の人生の始まりとしています。
(引用者注:誕生日と告知日は)どちらも大きな声で叫ぶように泣いた日で、右も左も分からない世界に入った日だ。そしてどちらにおいても、あることを思いしらされた。

――「努力は報われない」

 「あらあら、生まれたばかりの赤ちゃんが”努力は報われない”なんて言わないでしょうが」と突っ込みたくなりますが、もしかすると赤ちゃんは「ずっと胎内にいたかったのに!」と泣きながら生まれるのかもしれませんね。

 叙述は、京大の大学祭での林修氏による特別講義へと移ります。予備校講師として高名な林修氏は、「天授」という言葉を繰り返します。天がどのような才能を与えるか。生まれてくる本人は選ぶことができません。
 さらに叙述は、山口さんの心象描写へと移ります。いやもう巧すぎる。時期はちょうど、クリスマス1ヶ月前。

 もう二度とクリスマスが訪れることはないだろうと感じながらクリスマスソングを聴く人間の気持ちが分かるだろうか?
 絶対に分からないだろう。
 病気が治るかどうかは、努力の如何ではなかった。全ては運だった。
 (中略)
 あらゆるものは天授だ。


 林修氏の演題は、「やりたいことと出来ること」。林氏は「出来ること」を「社会に認められること」と規定します。「報酬が得られること」ではないのです。おそらく林氏は、予備校講師として、努力したいのに出来る状況ではなくなった受験生、不本意な結果しか出せず泣いた受験生、希望の進学を遂げたあとに「こんなはずでは」と苦悩する元受験生の大学生を、数多く見てきたことでしょう。そういう受験生や元受験生に対するデリカシーを感じます。

 林氏によれば、「やりたい」「出来る」の組み合わせは、以下の4通りになります。

  1. やりたいこと・出来ること
  2. やりたくないこと・出来ること
  3. やりたくないこと・出来ないこと
  4. やりたいこと・出来ないこと
 「1」で生きていける少数の人々は幸運です。が、サイアクと思われる「3」で生きるしかない人も少なく、多くの人々は「2」または「4」のどちらかで生きていくことになります。

 山口さんの意識は、為末大氏の言葉へと向かいます。夢を叶えるための努力は、無駄に終わるかもしれません。でも、努力の日々そのものが報酬であったのかもしれません。山口さんは考えます。

 病が癒えなかったからといって、これまでの努力は無駄になるのだろうか。大学に受からなかったからといって、これまでの受験勉強は無駄になるのだろうか。追い続けた夢を諦めたとして、その過程を無駄だと言い切ることは、果たして出来るのだろうか。

 山口さんは、為末氏の言葉を噛み締めます。ときには逃げることも必要です。逃げは、自分が何に縛られていたのか気づく契機になります。自分の足元では、大小さまざまな価値が発見されることを待っていそうです。

 山口さんが、これからも多様な価値を発見していく長い年月を送っていけますように。ただ祈ります。


山口雄也さんを応援する方法の例

 ご本人やご家族のために何かしたいというお気持ちを抱かれた方は、どうぞご無理ない形で応援をお願いします。ご家族を間接的に支えることも、ご本人への支えになります。
  • ツイッターで「いいね」やメンションによるメッセージを送る
  • ご著書を読んで、Amazonhonto読書メーターなどにレビューを書く
  • noteでご記事を読む・サポート(投げ銭)する・有料記事を購入する
  • 献血をして、献血センターがいかに素敵な場所であるかをSNS等で述べる(山口さんは、治療に大量の輸血を必要としています)
  • 献血できない人は、日赤などによる献血のお願いをSNS等で拡散する
  • 重い病気と闘病する人々やその家族の心境について、信頼おける書籍を読み、傷つけることなく支援する方法へと近づく



本記事を書いて推薦したくなったコンテンツ


 脚本家の内館牧子さん、コラムニストの上原隆さんのご著書から4点を推薦します。
 特に内館さんのこれらのご著書は、日本の女性とキャリアを考える上でも歴史的価値を発見されるべきものだと思っています。