白血病との闘いを続けている京大大学院生・山口雄也さん(Twitter: @Yuya__Yamaguchi)のご著書、『「がんになって良かった」と言いたい』から抜き書きして、自分のメモを記すシリーズの3回目です。私は Amazon Kindle 版を購入しましたが、紙の書籍もあります。



戦場の食(2017.1.18)
「ワシがあんたと同じ年の頃はな、自分で考えて行動するいうことができよらんかった。思想も物も何でも統制。今や見てみな、やりたい思たら何でもできよる。無限の可能性がある。それが学生や。生きたいように生きなさい」
 生きたいように生きる。それが叶う時代、叶う国に生きている。そのことを噛みしめなければならない。はっとした。

 この章には、がん病棟で出会った88歳の男性患者と山口さんの交流が描かれています。男性は戦時中、三菱重工で戦車を作っていました。航空隊に志願したものの辞めさせられ、特攻隊に加わることができなかったので生き延びました。戦中の三菱重工の戦車は、戦後、ロケット開発へと変遷していきました。
 観念論ではなくリアルな死に向き合った青少年時代を送った男性との出会いは、山口さんに強い影響を与えます。闘病という戦闘、そして病院という戦場への見方が変わっていきます。

 あの日、最後に彼はこう言っていた。
「飯さえの、死ぬまで食えたら、そらもう御の字じゃわ」
 米など手に入らなかった時代。少ない配給。栄養失調。ヤミ市。友を失い、家族を失い、家を失い。そんな時代を生き抜いたであろう彼の口から出た言葉である。

 間違いなく正義といえるものがあるとすれば、飢えている人に食物を差し出すこと。男性と概ね同世代と思われる故・やなせたかしさんが繰り返した表現を思い出します。

 2021年の今、飢えや栄養失調や家を失うことは、日本のあちこちにある現実となっています。新型コロナウイルス感染症そのものと、目に見えないウイルスが引き起こす社会的経済的状況の変化が、日本のあらゆる場面で、弱い人を選ぶかのように打ちのめしつづけています。

「ワシの役目は終わったけんの。あんたらが日本の未来を作らんと」

 日本の未来とは、その時、日本に生きる人々のことです。
 今、日本の子どもや青少年は、未来を担う人々として充分に大切にされているでしょうか。戦時中と大差ないように思えてなりませんが、戦時中と今の違いは、機能していると言えるかもしれない民主主義が一応は存在し、言論の自由が一応は認められていることです。
 今ある宝物を、今を生きている自分の命ともども、大切にしたいものです。


山口雄也さんを応援する方法


 ご本人やご家族のために何かしたいというお気持ちを抱かれた方は、どうぞご無理ない形で応援をお願いします。
本記事を書いて推薦したくなった本

 やなせたかしさんのご著書は、どれもおすすめできます。