白血病との闘いを続けている京大大学院生・山口雄也さん(Twitter: @Yuya__Yamaguchi)のご著書、『「がんになって良かった」と言いたい』から抜き書きして、自分のメモを記すシリーズはじめます。
 厳しい病状が続く山口さん、そしてご家族やご友人に、少しでも力となりますように。

 私は Amazon Kindle 版を購入しましたが、紙の書籍もあります。
 


宣告(2016.12.2)

俺は今まで真面目に生きてきただろう、なぁ。一体何のバチが当たったっていうのだ。不公平じゃないか。
そんな普通の生活をしているところに突如としてがんを宣告されるのである。

 19歳の大学生だった山口さんが、がんを宣告された時の反応です。自覚症状はなかったのに、がんは偶然見つかりました。「見つかってよかった」と言えなくもありません。でも、何事にも懸命に取り組んで京大合格を勝ち取り、いかにも今どきの大学生らしい学生生活を送っていた山口さんにとって、それは「青天の霹靂」という用語では済まない衝撃でした。

 日本人の2人に1人は、生涯のどこかで、がんを患います。4人に1人は、がんで死にます。四捨五入すると60歳になる私は、もう既に、同世代の友人知人の何人かを失っています。中には、がんで亡くなった人もいます。身近な範囲に、がん闘病を続けながら仕事その他の社会的活動を続けている人々も、ぱっと思いつく範囲でも5人以上はいます。がん闘病や、がんによる死亡は、顔の見える誰かの話。今のところは私のことではないとしても、いつかは自分のことになっても少しもおかしくない出来事です。自分も身近な人々も、生涯にわたって無縁でありたいものです。しかしながら、中高年期ともなれば、いつ我が身や身近なこととなっても、「まあ、仕方ない」と思うしかありません。

 若い人や子どものがんは、とても「仕方ない」とは思えません。短い生涯となることは避けられないのであれば、せめてどの瞬間も幸せであってほしいと望みます。
 2012年、友人夫妻の娘さんが脳腫瘍で亡くなりました。11歳でした。
 山口さんは、がん宣告を受けたとき、19歳でした。そして白血病との必死の闘いが続く今、24歳です。
 その子らしく、その人らしく、どの瞬間も幸せであってほしい。
 そして、出来ることなら、回復して「あのときは」と語れる将来があってほしい。
 でも、最も望むことは、誰もそんなクジに当たらず、当たったとしても一瞬で無効化できることです。


神 (2016.12.17)

なんで俺なんだろう。
この数週間で気が狂うほど繰り返した。
どうしてあなたが。
この数週間で誰もがそう言った。
そんなものに対する答えなんてないのに。

 山口さんのご著書に接した中高年の方の中には、ハンセン病患者に寄り添った精神科医・神谷美恵子氏の著作を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。
 神谷美恵子氏の詩「癩者へ」(『うつわの歌【新版】』(みすず書房)所収)には、ハンセン病患者を目の前にするときの思いを述べたくだりがあります。

何故私たちでなくてあなたが?
あなたは代って下さったのだ。

 今、山口雄也さんのご著書を念頭におきつつ1950-70年代の神谷氏の著作に改めて接すると、治癒が見通しにくい難病の中での生と死に向き合っているという共通点とともに、患者と医療スタッフが置かれている状況の違いに由来する差異が感じられます。
 神谷氏が接していた患者は、主にハンセン病患者です。単にハンセン病を患っているというだけではなく、感染が判明した時から療養施設に隔離され、そこで生涯を送ることとなりました。
 いずれにしても、難病に罹患するという「クジ」は、望んで引き当てるものではありません。そして、当たった後で「いらない」というわけにもいきません。このことは、50年以上前のハンセン病患者も、2019年当時の山口さんも同じです。

 国家権力によって強制的に隔離され、自由も将来の展望もないけれども同じ病気の仲間たちの中で暮らし、インターネットはないので”外界”と自らを比較する手段も少なかったハンセン病患者たち。
 治療の都合によって無菌室などから出られない場面はあるけれど、基本的には自由があり、将来の展望を描くこともでき、自由がなくてもSNSで外界とつながることができ、10代や20代でがんや白血病を患っているわけではない同世代の若者の中で大学・大学院生活を送る山口さん。
 どちらがどうなのか。第三者として、安易な比較は慎みたいと思います。

 半世紀以上の時間が過ぎて、病にとらえられた人々が生きやすくなっていると言えるのか。そこには大いなる疑問を感じてしまいます。

 
山口雄也さんを応援する方法


 ご本人やご家族のために何かしたいというお気持ちを抱かれた方は、どうぞご無理ない形でご支援をお願いします。

本記事を書いて推薦したくなった本

 半ば自動的に、神谷美恵子シリーズです。