私は20歳で実家を離れ、東京理科大の理学部第二部(夜間)に入学しました。
両親も私も昼間部の第一部への転部を望んでいたので、最初の一年は仕送りと時々のバイトで生活していました。
もっとも私の方は、転部よりも再受験で国立大学に行くことを望み、途中から勉強をそちらに切り替えていました。そして共通一次を受験。自己採点では900点を越えていました。東工大を受験しようとしましたが、出身高校元担任教師の妨害に遭いました。すったもんだの末、出願だけはできました。しかし元担任教師と母親に揉みくちゃにされた挙句、私は二次試験の受験にも行けないほど体調を崩してしまいました。
理科大で二年次に進んだ私は、仕事を探しました。親に翻弄される人生を終わらせるためには、まず経済力だと思ったのです。幸い、研究所が実験テクニカルスタッフを探しているという情報に接し、そこに常勤アルバイトの職を得ることができました。仕送りの減額を申し出たところ、母親はすぐ応じてくれました。私の方は仕送りをゼロにしたかったのですが、すぐに実行するのは無理な状況でした。大学の学費も両親が払っていました。学費の請求書は実家に送付されていたからです。
両親は、むしろ「私のために」という名目で、お金を出したがっていました。私の出身高校(母親の出身校でもあります)から寄付の依頼があると、母親は自分と私の名前で、それぞれ多額の寄付をしました。私は事後に知らされていました。私は出身高校のことを「黒歴史」だと思っているので、寄付などとんでもない話だったのですが、母親は
「お母さんがせっかくしてやったのに、感謝しない」
と怒っていました。
両親には、私を東京に進学させることが大きな負担にならないほどの経済力がありました。ただ、経済力があるということと、それを(少なくとも母親にとって)疎ましい長女のために使うことを良しとできるかどうかは、話がまったく別です。
そんなこんながありつつも、仕事と学業の両立にも慣れてきた大学2年の冬、福岡で会社員をやっていた父親に東京への転勤話が持ちあがりました。私が母親に聞いていた話では、父親が東京に転勤希望を出して、それが通りそうになったということです。なぜ父親が東京に転勤したかったのかは全くの謎です。当時の父親のキャリアにとって、どういうメリットがあるのか全く意味不明でした。母親が、父親の転勤を希望したのでしょうか? しかし当時の実家には、高校不登校の弟と、中学受験を控えた妹がいました。そんな時期に、転勤を希望するということがあるでしょうか?
母親はしばしば私に電話をかけてきては、父親の転勤が実現した後の私の生活について話しました。私は父親と同居し、身の回りの世話や家事一切をするのだそうです。大学にだけは行かせてやるそうです。母親は
「アンタはお父さんのことをしてやらんといかんから、自分のしたいことやら、もう全然できんごとなるとよ、ふふふ」
と言っていました。
私は、大変だけど仕事と学業が両立できようとしている当時の生活を手放したくありませんでした。大学を卒業して、自分の希望に近い仕事に就きたいと思っていました。友人たちとの交流を大切にしたいと思っていました。しかしそれを、母親はすべて根こそぎにしたかったようでした。
私は、退学して仕事も辞めて、行方をくらまさなければならないと思いました。大学に籍があると、両親が私に接触する機会が発生してしまいます。だから退学しなくてはなりません。理科大の学生だからということで得た仕事も、継続は困難になるでしょう。
それにしても問題は、生計です。
「何かやって食っていけるだろう、一応プログラムも書けるし」
とは思いましたが、学業と仕事を両立しながらの就職活動は容易ではありませんでした。しかも大学中退、高卒の学歴での就職活動です。私は、自分の生計を支えられるだけの定職を見つけることができませんでした。
そうこうするうちに、父親の転勤話は立ち消えました。もしかすると、母親が希望していたというだけで、転勤話そのものが存在しなかったのかもしれませんが。
大学3年になった私は、学業と仕事に加えて音楽活動も始めました。早く経済的に自立しなくては、と焦ったのです。キーボードが弾けたので、スタジオミュージシャンになれるように日々練習し、セッションの機会があれば飛び込んで腕を磨き、オーディションにも応募していました。オーディションの成績は振るわなかったものの、応募を繰り返すうちに、だんだん可能性は大きくなっていきました。いつか届くだろう、という希望を持つことができました。
でも、研究所に勤務していた私は、研究者になりたいと考えるようになっていました。大学院進学を考えていました。時間があれば勉強したかったのです。そのためにも、大学院進学を可能にする経済力、ストレート進学でなくても将来のいつか進学することを可能にする経済力を身に付けることの方が先でした。
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