結論からいうと、
「研究ノートをきちんと残していない人が、難しい実験を再現できるとは信じられない」
です。
私は21歳のときから研究の現場で実験テクニシャンとして働いていました。
実験ノートは几帳面すぎるほど細かくつけていました。
当時(1985年ごろ)は実験室にパソコンがあるわけではなく、画像記録はポラロイド写真全盛でした。そのポラロイド写真をノートに貼り付けたりとかして、画像も込みで結果を記録していました。
それでも、自分の実験ノートを見てさえ、「再現できない」「他人に伝えられない」はよくありました。
確かに、微妙なコツのようなものによって、成功する・しない が分かれることはあります。
私が他人に伝えることに苦心したのは、半導体デバイスの断面写真を撮影するための段差エッチングでした。割っただけの断面は平面ですから、電子顕微鏡写真を撮ったときに「ここは周囲と違う組成です」をはっきりさせる目的で、断面に組成による段差がつくようにエッチングするんです。
私は研究員に教わって、自分もそのとおりに段差エッチングを行うことができました。
ところが大学の卒研生がやってきたとき、自分がやっている通りに教えても、彼らは出来るようになりませんでした。エッチングが足りなさすぎたり、逆にやりすぎていたり。
「ブツをエッチング液に漬けて、引き上げ、水に浸して洗う」
という手順のどこかに、私はできるけれども彼らはできないポイントがあったようです。
私は何回も実験ノートを見なおして、伝えきれていないのは何だろうかと考えました。ただ、その半導体デバイスは非常に脆いもので、ピンセットで壊さないようにつまみ上げるだけでも結構な習熟が必要です。おそらくはエッチング液から引き上げるときの角度・引き上げてから水に浸すまでのわずかな時間の違いといったところがネックとなっていたのでしょうが、伝えることはできませんでした。
考えられる限り、自分のやっていることを細かく記録したノートがあってさえ、他人に実験の手順を伝えるのは結構大変です。
ましてや難しい実験で、特別なコツが必要であればあるほど、
「ノートがないのに再現できる」
「ノートがないのに他人に伝えられる」
ということは考えにくいのです。
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